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バンダイナムコエンターテインメント原田勝弘氏が見る、クラウドゲーミングの可能性と未来 - GeForce NOW Powered by SoftBank特設サイト - ファミ通.com

 2020年6月より正式サービスが開始されるGeForce NOW Powered by SoftBank。そんなクラウドゲーミングサービスに対して、歴戦のゲームクリエイターはどのように感じているのか?

 『鉄拳』シリーズを始めとして多数のタイトルを手掛け、バンダイナムコエンターテインメントのゼネラルマネージャーを務める原田勝弘氏に、クラウドゲーミングサービスへの気持ちや考えを聞いた。

 自作PCマニアでもあり、未来への展望や技術への関心も高い原田勝弘氏ならではのお話をたくさんお聞きしたので、じっくりお楽しみいただきたい。

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クラウドゲーミングは確実に来る未来で、いつ来るかはインフラ次第

――クラウドゲーミングに対して原田さんはどのように考えているか、率直なご感想をお教えください。

原田 時間の問題”というキーワードがゲーム業界内では飛び交っていますよね。その意味はVRなどの新しい技術の普及とは違っていて、たとえばVRは「これは絶対に時間はかかるけど、研究し甲斐があるし、おもしろい世界が広がるはずだ」という期待感で突き進んでいるところがありますが、クラウドゲーミングサービスについては、ゲーム業界ではここ1年どころか10年以上前から予見していた人がいます。プレイステーションの生みの親である久夛良木健さんがそうで、クラウドゲーミングという呼びかたではなかったですけど、「あらゆるプラットフォームが、ネットワークの中に溶けていく」と、すごく早くからおっしゃっていました。18年ぐらい前ではないでしょうか。

――ハードウェアはいずれなくなるとおっしゃっていましたね。

原田 そうですね。でも当時はゲーム開発者のあいだでは、その話を理解はできるものの、そのころはまだゲームハードウェアごとクラウドになるのはなくて、ゲームを提供する方法、いわゆるダウンロード販売とか、そういう捉えかたでした。ゲームそのものの処理に関してはローカルでやらせるほうがメリットがあるというのが、これまでの見方でしたよね。

 そこから、これからのクラウドゲーミングは“時間の問題”というキーワードに戻りますが、それはインフラなんですよね。いろいろな意味で時間の問題なんです。それは、“遅かれ早かれ来る未来”という意味もあるし、もうひとつは“インフラを整えるのに時間がかかると、その未来が遠ざかる”という意味もあるんです。どちらにしろ“いずれは来る未来”ではあるのですが。

 あと、たとえば日本だけがインフラが整ったところでダメなんですよね。世界中が一斉に整ってくれないと。スペックやインフラが世界中で高いレベルで揃っていてくれるほうがゲームを作りやすいですから。私たちゲーム業界の人間は、その状況がいつどこまで整ってくれるかを眺めているという状況です。

 ですので、クラウドゲーミングサービスに対する“時間の問題”というキーワードは、僕の個人予想なだけではなくて、ゲーム業界の人がみんな「それはそうだよね」と共有できるものだと思います。

――確実に見えているものですか?

原田 未来としてですね。僕らの子どもとか、もしくは孫がゲームを楽しむころには、当たり前になっていて、いまはその始まりぐらいなのかなと。

――クラウドゲーミング普及のカギはインフラ次第ということですね。とても説得力のあるお話です。

原田 たとえば格闘ゲームで言うと、僕はよく“格闘ゲームにとって2000年代は暗黒の10年だった”という話をしているのですが、アーケードゲームの通信環境って当たり前ですけど、もっともすぐれていますよね。2台の筐体に1枚の基板で、ハーネスの距離分しか離れてなくてインプット信号をやり取りしている。あのローカルの対戦時代から、オンライン対戦ができるようになってきたころはすごくギャップがあって大変だったんですよね。

 それから徐々にオンラインが普及していったのですが、それを踏まえてクラウドゲーミングを考えると、もちろん環境、つまりはインフラ次第なんです。それはもう、いろいろな国でどれぐらい整ってくれるか、様子を見ています。インターネットの黎明期から何度かあった、切り替わりのひとつのような気持ちでいますね。

――たしかに、あのころの家庭用ゲーム機のオンライン対応への切り替わりに近いのかもしれないですね。格闘ゲームのオンライン対戦で言うと、それこそ古くはダイヤル回線のモデムで通信対戦していましたけど、プレイステーション3やXbox 360の世代ではオンライン対戦が標準搭載になっていきましたし。

原田 そうなんですよ。ダイヤル回線のころには、「格闘ゲームをオンライン対戦するのはやっぱりきびしい」と思っていたのですが、プレイステーション3やXbox 360には変わっていきました。ゲームの売りかたも、それまではパッケージ販売だけだったところにダウンロード販売が出てきて、最初はみんな「手元に残るパッケージじゃないと……」って言っていましたが、いまではだいぶダウンロード版の比率が高まっていて、アメリカとかだと逆転しつつもあるわけですよね。

――そうですよね。思えば『鉄拳』シリーズはプレイステーション3が発売されて間もないころにダウンロード専用のタイトルを出していましたよね?

原田 そうそう、『鉄拳5 DARK RESURRECTION』ですね。プレイステーション3が発売されて1ヵ月くらい(※)で出した初めてのダウンロード専用販売の『鉄拳』シリーズで、後にオンライン対戦にも対応しました。あれはまさにテストケースのようなものでしたね。

 遊んでくれた人からの評価はなかなか高かったのですが、まだダウンロード専用販売のゲームにユーザーさんが慣れていないし、通信インフラが整っていない国だと快適に対戦できないという声もありました。でも、それはゲームだけでは解決できないことだったんですよね。

 ですので、クラウドゲーミングと聞くと僕らは、むしろ先にインフラや環境を整える人たちががんばってくれないと技術を活かせないという考えに至るんですよね。そういう意味で“時間の問題”なんです。

(※ プレイステーション3の発売は2006年11月11日、『鉄拳5 DARK RESURRECTION』は2006年12月27日にPlayStation Storeにてダウンロード専用タイトルとして販売された)

――インフラが整うと、それまで常識ではなかったものが実現できるようになって、気づけば当たり前になる。クラウドゲーミングもそういう性質のものだというわけですね。

原田 クラウドゲーミングの利便性は、家庭用ゲーム機がオンライン対応したときよりも、もっと高いと思うんですよね。ゲーム機のオンライン対応は“家にいながらにして誰かといっしょに遊べる”と“家にいながらにしてゲームソフトが買える”という利便性でしたが、クラウドゲーミングのレベルまでいくと“みんなが携帯電話を必ず持つようになった”のと同じで、場所に縛られなくなりますよね。そういう意味でまったく次元の異なる利便性の高まりがあると思います。

――たしかにハードウェアを用意しなくていいし、プレイ環境を整えたりすることからも大幅に解放されますよね。

原田 そうです。これまでだとクラウドにセーブデータを預けるという使いかたをしていますよね。Steamなら家でも、職場のPCでも、出張先で遊ぼうが同じセーブデータをふつうに使える。ひと昔前だと「あ! セーブデータ持ってくるのを忘れた!」とか、やっていましたけどね(笑)。セーブデータひとつをとっても、クラウドを活用すると便利になって常識になっていくんですよね。

 昔は、「プレイステーション3でプレイしたゲームの続きを、外でPSPでプレイできたらいいよね」とか言っていたのですが、それを実際にフルに活用できる環境にいた人は少なかったわけで。でも、クラウドがインフラとともにしっかり活用できるようになれば、誰もが当たり前にそういう遊びかたをするようになっていく。ゲームのライフスタイルがまったく変わるなという期待をしています。

 それもこれもすべてインフラ次第なので、そのカギになっていくのはやはり5Gなのではないかと思っています。

――インフラを一気にアップデートするという意味で、やはり5Gがカギだと?

原田 そうなりますよね。僕も20年前は「世界中が有線の光ファイバーで繋がればなんとでもなる!」と思っていたのですが、予想外だったのはスマートフォンがここまで人の生活を変えるということでした。それは20年前には想像できなかった。いまでは、無線というケーブルレスなものに慣れてしまって、もう世の中は有線には戻れないでしょうし、そこが進化することが一番世の中を変えていくのだろうと思うんです。

――固定回線からの解放ですね。

原田 そうですね。5Gで解放にまた近づくのだろうと思いますね。

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着実にクラウドの恩恵は浸透していて、それがゲームにも本格的に訪れるのは自然な流れ

原田 僕は自分でPCを組んでバリバリにスペックを高めてゲームを楽しんでいる人なのですが、いずれクラウドPCの利便性が高まると、その楽しみを失うのかなと思うと、ちょっと寂しいですけどね。とはいえ、利便性にはどうせ勝てないだろうなあ。

 僕はもともとパッケージマニアだったんですよ。家に限定版とかの大量の空箱があって押し入れや倉庫が埋まるぐらいになっていたんです。そのころは「俺はデジタルダウンロード時代が来てもパッケージを買い続けるんだ!」と言っていたのに、いまではデジタル上に積みゲーするようになってしまった(笑)。

――Steamライブラリに積むように(笑)。

原田 いまだと、「ディスクは紛失するからいらない」って言ったり、箱もいらないというようになってしまいました。自分がこんなに変わったのは利便性に負けたからなんですよね。負けたというのも変ですけど(笑)。やはり便利なものには勝てない。

 そうやって考えると、「そうか、俺はいろいろなものから解放されているんだ」と思えて。大量のパッケージを保管するスペースだったり、ディスクを紛失するというリスクだったり、いろいろなリスクや場所から解放されているわけです。

 これからは時間からも解放されていきますよね。以前は家に帰ってデスクトップPCの電源を入れて座ることでしかプレイできなかったものが、クラウドゲーミングが進んでいくと、電車での移動中でもプレイできるようになっていくわけです。いまだとNetflixみたいな映像系がいつでもどこでも観られるようになってきていますが、ゲームでも同じようなことが起きていくでしょうね。そうなっていくと、「俺は意地でもデスクトップPCで遊ぶんだ!」といままで思ってきたのですが、将来的には絶対に言わなくなるのだろうという想像がつくんですよね……。

――たしかに、気がつくと自分の考えかたや価値観は変わってますよね。

原田 いずれ、「家にHDDがあるの? なんで?」とか言うようになりますよ(笑)。「HDDなんて壊れるリスクあるじゃん、なんで使っているの?」って。

――(笑)。写真とかのデータ保存的な考えかたで言うとそうですよね。

原田 そうなんですよ。僕も昔は、“写真を残しておく”という行為の意味がわからなかったんです。「お前の写真なんて誰も見ないよ!」と思っていたのですが、いまはふたりの子どもがいる親になったのでわかるんですけど、「これはいっぱい写真撮るよね」って(笑)。

 うちにはHDDがおそらく10数個あると思うのですが、3TBのHDDが壊れてデータが飛ぶとか起きるんですね。ああいうときの大変さ、エマージェンシー感ときたら……。サルベージのための復旧ツールを1万円とかで買ってきて、30時間とかかけてある程度のデータを取り出せて「よし!」と、うれしくなったりとか、「この作業は何だろう?」という感じではあります。

――PCのヘビーユーザーはHDDクラッシュからのデータサルベージは定期的にやりますよね(笑)。

原田 でも、いまならクラウドのストレージサービスに置いておくほうが絶対にいいですよね。故障とかのリスクがない。それに、田舎に帰ったりしておじいちゃんやおばあちゃんに「あのときの写真見せてあげようかな」と思っても、「あ、HDDの中だ。データ持ってくればよかった」と昔は後悔したりすることもあったのですが、いまはクラウドストレージサービス経由で開けばいいわけです。

 けっきょく、みんなそういうところから少しずつクラウドの恩恵を受けていて、この便利さがもっともっと広がるわけです。いまは写真やセーブデータとかのデータ置き場的な活用が入り口ですが、もっとゲームそのものにも活用されていくんです。

 僕らの子どもの世代は、遊んでいるゲームの話をするときに、ハードの名前ではなくサービス名で呼ぶようになっているのではないないかなと思いますよ。世の中のものが片っ端からクラウドになっていくのが、10年後なのか20年後なのかと捉えていて、ゲーム業界もみんな準備しているところですよね。

ゲームの作りかたもクラウドゲーミングで変わる? 処理をサーバーで行うことに大きなメリット

――インフラが整ってクラウドゲーミングがより当たり前になっていったとき、ゲームの作りかたはどう変わっていくでしょうか?

原田 たとえば、オンラインのマッチングサーバーなど通信周りの作りかたは変わりますよね。プレイヤーがみんなクラウドゲーミングのサーバーに繋いでゲームをストリーミング越しで遊んでいるのなら、マッチングや通信の処理はそのサーバー内でできますよね。

 それであれば、ひとつのゲーム内に10万人をマッチングさせて一斉に遊ぶ、なんていうこともできるかもしれない。まあ、「10万人でどんなゲームを遊ぶのか? 全員でゾンビ役にでもなるのか?」という課題は出てきますけど(笑)。ただ、マッチング数の制限は一気に楽になります。

''――なるほど。いまだとプレイヤーそれぞれの端末でゲームの処理をしつつサーバーと通信していますが、処理もサーバーの中で行うようになって結果だけを映像として送るようになれば、キャパシティが大きく変わるということですね。いまだとバトルロイヤルものが100人というのがセオリーですよね。
''

原田 ですよね。MMORPGとかだと1サーバーに3000人規模でログインしていますが、ひとつの場所にいられる数には限界がありますよね。でも、クラウドゲーミングならその構造がガラッと変わってスケールが大きくなるはずです。

 あとは格闘ゲームのような1vs1でシビアな入力レスポンスを求めるタイプのゲームでも、いままでのP2P方式で通信していたものだと“プレイヤーどうしの距離”にかなり左右されていたんですよね。でも、互いがクラウドゲーミング上でプレイするようになったら、その距離がなくなるんですよ。

――それぞれのゲーム機で処理しているものがなくなって、クラウドゲーミングのサーバーの中で同等に行われるようになるからですか?

原田 そうそう。プレイヤーのマッチングから通信の処理まで、同じサーバー内でやるから最短になるんです。

――通信経路や処理の構造がシンプルになることに大きなメリットがあるんですね。

原田 そうなると、“コントローラーとクラウドゲーミングサーバーとの距離”が重要になるんですよ。いまだと、USBで繋いでPCからLANかWi-Fiで通信していっているんですよね。でも、コントローラーが直接ルーターに信号を送るようになったり、5G以降の将来には直接コントローラーが基地局に信号を送れるようになるかもしれない。そうやって経路をシンプルにできれば、よりレスポンスがよくなっていくし、パケットロスも減るわけです。

――それだけ速くなるということですね。

原田 インフラがものすごく整ってくれれば、全体的に速くなるんですよ。まずマッチングはサーバーの中で処理するだけだから、同期とかの処理がものすごく楽になる。対戦中のレスポンスもサーバーとコントローラーの距離の問題だけになるから、インフラが整ってくれたら、「昔にP2P方式のオンライン対戦していたときよりもレスポンスいいかもしれない」と感じる日がくる可能性もあり得ますよ。

――なるほどー。クラウドゲーミングにおいては、入力デバイスとサーバーまでの距離だけがポイントになっていくわけですね。

原田 入力デバイスの問題は人それぞれの好みやフィーリングの問題があるので、何かひとつのデバイスが正解とは思わないんですけど、ゲームによってはスマホのバーチャルコントローラーで、画面込みでスマホのみというスタイルにはなりますよね。スマホなら基地局への直接的な通信もさせやすいのかもしれない。

 アーケード世代としては、やはりファイティングスティックなんだけど、クラウドゲーミング対応のファイティングスティックも、ひょっとしたら1台ぐらいは発売されるということはあるかもしれないですね。

――入力データをルーターや基地局に直で送るアケコンですか!

原田 5Gモデルとか、その先の6Gモデルのファイティングスティック。そういうクラウドゲーミング対応のコントローラーというのは、いくつかのゲームジャンル用にあり得ると思うんですよね。

――アケコンに、ゲームパッドに、マウスにキーボードに……ですね。

原田 チップさえ載せればいいですからね。一部では「入力デバイスもけっきょくは全部スマホになる」という意見もあるのですが、ゲーマーのこだわりはネットワークに溶けないんじゃないかなと思うんですよね(笑)。

――人それぞれの遊びやすさがありますしね。

原田 手で持つものというのは、個人で“こうしたい”という多様性があると思うんです。そこはむしろカスタムして自分好みにするという方向がいまより伸びると思うので。みんなそれぞれに5G対応の入力デバイスを持つようになると思いますし、それだけを持ち運んで、どこでも遊ぶようになるのではないでしょうか。

 いま、eスポーツの大会がどこかの国で開催されるときに、その国に行く空港のロビーとかでプレイステーション4と本体が一体化しているモバイルモニターでプレイしていたりとか、ゲーミングノートPCとスティックでプレイしていたりする姿が多く見受けられるのですが、そういう機材を持ち運ばなくても済むような時代が来るかもしれない。空港備え付けのモニターで、コントローラーだけあればいいというような……。クラウド対応のモニターというものが出てくればいいんですよね。

――なるほど。それにしても、すべてがクラウドに最適化された先には、入力デバイスへのこだわりだけが残る、それだけはネットワークに溶けないというのは、すごくおもしろい話です。

原田 そうなると思うんですけど、でもわからないですよね。僕はFPSが好きで、いわゆるPCのFPS初期の『DOOM』あたりから遊んでいるんです。家庭用ゲーム機にはまだFPSが出てなかったころから、PCゲーマーはキーボード&マウスでプレイしていて、FPSというゲーム自体がキーボード&マウスに特化して作られていたんですよね。

 でも、家庭用ゲーム機にFPSジャンルのゲームが登場すると、パッドのアナログスティックで遊ぶようになっていきました。ネットスラング的には「パパパパ、パッドでFPSwwww」なんて言っていて、僕もそういう反応だったんですよ。「パッドでFPSなんてどうやるの?」と思っていたんです。でもみんなが順応していって、パッドでもうまいプレイヤーが増えてきたんですよね。

――次第にパッドが多数派になってきたわけですね。

原田 いまはユーザー数で言えばパッドが多数派ですよね。現状FPSというゲームはパッドでの操作フィーリングを無視するわけにはいかない。

 格闘ゲームもスティックよりパッドのプレイヤーが多いですよね。どの格闘ゲームの大会でもパッドの選手はすごく多い。プロの選手が使っていたりして目立っているのはスティックですけど、パッドの利用者が圧倒的に多いです。

――とくに予選とかだと、パッドの選手は本当に多いですよね。

原田 そうそう。で、『フォートナイト』とか『PUBG』とかはスマホでやっている。僕は「スマホでどうやって遊ぶんだろう!?」と最初は思っていたのですが、やってみたら意外でできる。いま「FPS/TPSはマウスじゃないとダメ」と言っていたら世界中から老害扱いされます。きっと。

――(笑)。

原田 ファイティングスティックだって、いまは「本格的ですねー」って言ってもらえるけど、そのうちに、「やべーのが来た!」扱いになるかもしれないです。「しかも、あんまり強くない!」とか言われたら最悪だなあ。

――(笑)。

原田 クラウドゲーミング時代にも入力デバイスは残るという話をしましたが、そこもやはり利便性が勝ってしまって、スマホが第一に……とかになっているかもしれないです。もしくは画面に指が被るのを避けたくて、こだわる人は2画面のスマホを駆使して1画面は操作で、みたいになるかもしれない。 そういう時代が、いずれは来るのかなと。入力デバイスは残りそうですけどね。……いや、わからないな。20年後にこの記事を見て、自分で爆笑なんてことがあるかもしれないです(笑)。

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クラウドゲーミングが当たり前になればAIの活用も広がる!

――ゲーム内処理をクラウドゲーミングサーバー上でやると効率がいいというお話ですと、スマホのゲームアプリはセキュリティーの理由もあって、処理はできるかぎりサーバー側にもたせていますよね。

原田 そうですね。PCゲームもクラウドゲーミングになるとそれに近づくかもしれないです。スマホのゲームと言えば、あるパズルゲームで、同じステージをプレイしていて何度もクリアーできないでいると、AIがこっそり難易度を調整してくれるというのがあって。それを知らなくて、てっきり僕がうまくなったんだと思っていました(笑)。

 そういう仕組みやプレイデータの解析も、じつはサーバー側でやっていたりするんですよね。ゲームそのもののグラフィックス描画などはローカルの端末スペックで処理するのですが、データ集積などはサーバーでやりますね。

――高度なAIをゲームに組み込んでいくのであれば、いまの家庭用ゲーム機やPCのようなローカルクライアントでやらせているものよりも、クラウドゲーミングのようにサーバーで全処理ができる環境に組み込むほうが、やれることの幅が広がるのですか?

原田 広がるでしょうね。たとえば、MMORPGっていろいろな問題を抱えているじゃないですか。友だちといっしょに遊びたいけどなかなか時間が合わないとか、友だちだけじゃなく知らない人がいたほうが臨場感があっていいけれども揉め事も生じやすいとか。

 ひょっとしたら、ほかのプレイヤーが“人間なのかAIなのかわからない時代”になると思うんですよね。そうなったらすごくおもしろいでしょうね。本当に人間とAIの区別がつかないレベルにまでなったら、自分が『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローンズ』のストーリー展開にうまく巻き込まれるように、本当の人間のようなAIが誘導してくれるような、そんな体験のゲームが実現できるかもしれないです。オンラインゲームをいっしょに楽しんでいるフレンドが、じつはAIのNPCだった、というような。

――ゲームを成立させる装置としてのAIフレンドですかね。

原田 クラウドサーバー上にいるAIなので、プレイヤーがゲームの外にいるときにLINEで連絡すると返事をしてくれたりということもできる。それが倫理的にどうなのかという問題もあるかもしれないのですが、それくらいのレベルでAIが本当の人間のふりをして、ゲームをいっしょに遊んでくれることも可能だと思うんです。そういう映画ありましたよね?

――AIが人間のふりをして近づいてくるというような?

原田 そうそう。ディストピアな話ではなくて、エンターテイメントとして。ゲーム外にまで連絡をしてくるようなゲーム内AIで、昨日ゲーム内であったことをLINEで教えてくれたり、何をして遊ぶかを提案をしてくれたり……。

 自分ではゲーム配信をしたり、ブログを書いたりすることはめんどうくさいけど、自分のゲーム友だちだと思っていた人が、「昨日いっしょにプレイした内容をアップしておいたよ」とか、「昨日撮ったスクショなんだけど、これ見て!」とか、やってくれるんだけど、じつはプレイヤーを楽しませるためのAIだったということもあるかもしれない。それ、すごくいいですよね。

――コンシェルジュ的に、ゲームライフをよくしてくれるAIですね(笑)。

原田 そういう存在がいてくれたら友だちがいなくてもよくなりますね(笑)。クラウドゲーミングになると、これまではゲーム機の中でしか動けていないものや処理されていないもので、電源を切ったら終わりでしかなかったものがそうではなくなるので、できることに広がりが出ますね。いままではディスクに収録されていましたが、誰もがクラウドゲーミングサーバー上でプレイするようになったら、たとえばキャラクターがゲームにまつわる情報や連絡をしてくれたり、いろいろなサービスを付随させられるようになるでしょうね。もちろん現時点でもそれに近いことはできなくないでしょうが、いまは個別の環境でプレイしているので、何かをするにしてもやりづらいんですよね。それが、みんなが同じクラウドゲーミングサーバーでプレイしているという環境になると、いろいろなことがやりやすくなるんです。

 ネットワークに全部溶けていて、そこにアクセスして遊ぶというスタイルになってくれれば、溶けているからこそ人かAIなのかの区別もつかないようなことができるわけです。そこでは、おもしろい世界を構築できるのではないかなと思いますよ。

スマホでハイエンドPC並のゲーム体験ができてしまうことに原田氏も驚愕!

――実際に原田さんにもGeForce NOWでのゲームプレイを試してもらいましょう! タイトルは『エースコンバット 7 スカイズ・アンノウン』です。せっかくですし、あえてスマホのバーチャルパッドでプレイしてみますか。

原田 これなぁ、意外とこれでも遊べちゃうんだよなー。

――これからどうなっていくか次第ですが、PCゲームに最初からクラウドゲーミングで、しかもバーチャルパッド操作で触れていったという世代も現われますからね。

原田 そうなんですよね、恐ろしいんですよ。ここから入っていったなら、スマホにバーチャルパッド操作で違和感はないというようになると思うんです。

――プレイの方はどうですか? バーチャルパッド操作は。

原田 やばい、けっこうできるよこれ! これはさっきの「入力デバイスはそれぞれのこだわりがしばらく残ると思う」っていう話は撤回かも。ほとんどのゲームこれでいけてしまうかもしれないです。

――『エースコンバット 7 スカイズ・アンノウン』は比較的バーチャルパッドでもプレイしやすいかもしれないですね。さすがに『鉄拳7』はきびしいかもしれませんね。

原田 まあ、バーチャルパッドだと辛いですよね。こうなってくると意地でもバーチャルパッドでは遊べないゲームを作ってやりたくなりますね。

――(笑)。

原田 それにしてもぜんぜんいけてしまいますね。これって、クラウドでストリーミングなんだから、スマホもそんなにスペックの高いものでなくてもできてしまうんですよね? このグラフィックスで遊べてしまうんですものね。PCでのハイスペックなグラフィックスは貧乏ゲーマーには味わえないみたいに誇っていたのに、そんなことは言えなくなりますね(笑)。

 それに遅延も感じないですね。『エースコンバット 7 スカイズ・アンノウン』はもとのゲーム的にもそれほど遅延を感じないところもあるからいいですね。

 あとは、バーチャルパッドで遊ぶ人向けにゲーム開発側が、ちょっとUIやキーアサインをサポートしてあげるといいかもしれないですね。というか、サポートするようになっていくでしょうね。指でレーダーが隠れてしまうとよくないので、レーダーのUIの位置をカスタマイズできるようにするとか、もう少し簡単にロックオンしやすくアシスト機能をつけてあげるとか……。

――そのへんの考えかたはスマホのゲームアプリがどんどん取り組んでいますから、そちらと融合していくかもしれないですね。

原田 そうですね。もうあとは画面の大きさで勝負するしかないのかも。とはえ、テレビもChromecastみたいなメディアストリーミング用デバイスで対応すれば、すぐにできてしまいますよね。

――そうですね。現状でもPCで遊べますし、ゲームには不向きなノートPCで、テレビにHDMIケーブルで出力するとかもやれますね。

原田 いや、恐ろしいですよ。グラフィックスの魅力はもう完璧ですしね。あとはこれがどれぐらいのスピードで浸透していくか次第だと思いますよ。

――操作はもちろんゲームパッドも使えますけど、もっとも身軽なスタイルという意味ではプレイしてもらったスマホ単体でのバーチャルパッド操作ですね。先ほど少し話が出ましたが、やはりニーズが高まってきたらゲーム開発者としてこういう操作も意識していくことになりますか?

原田 GeForce NOWで遊ぶユーザーさんが増えれば、要望が出てきますよね。そうなったらソフトウェア側でサポートしていかないといけなくなるでしょうね。オプションでUIレイアウトをカスタマイズできるようにしたり、バーチャルパッドでは難しい同時押しといった操作は、そもそもゲームから排除されていったり、そういう議論をすることになっていくでしょうね。

 PCゲームでも、スマホで遊んでいる人も想定することになりますね。時代に合わせて対応していかないといけない。クラウドゲーミングとは言っても、PCが大前提ということでバーチャルパッド操作は少数派だろうって思っていると、いつの間にか逆転していた、なんていうことが起きるかもしれないです。これは、恐ろしいなと感じさせられますね。

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“20万円の最新グラボ vs GeForce NOW”!PCマニアの特権だったハイエンド体験が解放されていく

――Steam版の『鉄拳7』、『エースコンバット 7 スカイズ・アンノウン』、『ソウルキャリバーVI』がGeForce NOWに対応していますが、原田さんはGeForce NOWについてNVIDIAと話し合ったりはされたのですか?

原田 しました。僕はそもそもNVIDIAの人と付き合いがあるんですよ。僕がPCマニアだというのもあって、本社に行っていろいろ見せてもらったりもしているんです。

 GeForce NOWについてNVIDIAの社長に聞いたのは、もう5年ぐらい前ですね。「ゲームを全部クラウド側に置きたい。でも、私たちがパブリッシャーになるとか、プラットフォーマーになりたいわけでもない」と。「NVIDIAとしては、ゲーマーのPCにGPUがあろうが、クラウドゲーミングサーバーにGPUが搭載されていようが、ゲーマーがGPUを使ってゲームを楽しんでいることに違いはないから、よりよい体験を提供できるようにしたい」と話していたんです。

――NVIDIAとしてはどちらでもいいし、よいゲーム体験を増やすほうがメリットになるということですね?

原田 そうです。僕なんかはPCマニアなので、新しいゲームに新しい技術が搭載されたとなったら、それを試したいんですよね。たとえば『バトルフィールドV』でレイトレーシングを試したときは、まず家のPCで遊んでみたら、オプションのレイトレーシングの項目はオンにできないし重かったんです。そこですかさず当時最新のGeForceのグラフィックスボードを買うわけです。18万円くらいしたわけですが……。しかも、「せっかくだからCPUも買おう。マザーボードも買うか」ってなってしまう(笑)。なんだかんだで30万とか40万とかかかってしまうわけです。

 でも、よく考えたら1本のゲームをフルで遊ぶためにめちゃくちゃコストがかかっているんですよね。「そのPCで何本も遊ぶのでは?」と思うかもしれないですが、半年から1年もするころにはまたグラボを交換したくなるわけです。これをくり返すと年間のコストがものすごいことになっている。

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Steam版『鉄拳7』もGeForce NOWではプレイ可能。

――(笑)。

原田 うちの嫁からは、「その20万近いグラフィックボードって何ができるの?」って言われています。僕は「これだけでは何もできない」って答えるんですね。そうすると、「このグラボ1枚で、プレイステーション4が何台買えると思っているの?」って言われるわけです。

――たしかに(笑)。

原田 それどころかグラボはすごい熱を発します。電力消費もすごいです。僕のPCの電源は1200wなのですが、ピーク時にはずーっとドライヤーをかけているぐらいです。そんな電力で何をやっているかというと『バトルフィールドV』のレイトレーシングなんです。オンとオフを切り替えると、僕は満足なんだけど、ゲームに興味がない人にはわからない。

 ……というわけで、そんなものに半年ごとにすごいお金を使っているというのは理解されないわけです。でも、僕はいままでずっとそうしてきましたし、自分のPCライフが誇らしかったわけですけど……いまは子どもも生まれて、よく考えたら「俺はちょっとおかしいのかもしれない。いままでPCに費やしたお金ってとんでもない額だ。これはあかん」って思ってしまったんです。

――してはいけない計算をしてしまったんですね……。

原田 とは言っても、それで得ている体験はすごいわけですよ。「すごいグラフィックスだ!」、「ヌルヌルだ!」とか、いちばんよいものを味わっているわけで、それを味わったらもうショボイものには戻れない。

 そんなわけで、NVIDIAの人たちは、俺みたいに大金を注ぎ込んでいる人だけを相手にするのではなくて、「お金がない貧乏学生にも最高のゲーミング体験を提供できるようにしたい」ということなんですよね。「そうしたら、ゲームに対してもっとよい印象を持ってもらえるでしょう」ということです。僕が味わっているようなゲーム環境や体験をみんなに味わってほしいし、それをもっとカジュアルに楽しめるようになったらいいですよね。そうした思想でNVIDIAが進めてきたものが、このGeForce NOWだったんです。

 それを聞いて僕は「なるほど、レンタルGeForceか!」と思ったんです。家のPCの性能が低くてゲームできない人がネットカフェに行ってプレイすることもあるわけで、そのクラウド版であり、自宅で実現できるようにするんだなと。

――“レンタルGeForce”っていうワードはストレートで分かりやすいですね(笑)。

原田 この話を人にすると、「それって、NVIDIAには何の得があるの?」と言われるのですが、けっきょくは体験をゲーム好きに広めているんだと思うんです。裾野を広げて、より多くの人が最新のグラフィックスを楽しめるように、間口を広げている。その価値を知ると、なかなか……。

 “価値を知る”というのは重要なんですよ。僕だって昔は「解像度はゲームのおもしろさに直結するわけではない」と言っていたのですが、一度パキッとした画面を見たあとにぼんやりとした画面見ると、どうしてもダメですよね。人間贅沢には慣れてしまいますよね。映像もそうですが、昔に見た4:3比率のアナログ放送の映像をいま見たら、「アップスキャンしろよ!」とか思ってしまう。

 そういうのと同じで、“体験のレベルを引き上げる”ことが重要で、GeForce NOWはそれをやりたいんだろうなと思います。ハイエンドな体験をクラウドゲーミングで味わったら、ゲームをやる人自体が増えて、結果NVIDIAはGPUの需要を伸ばすことに成功する。NVIDIAは、20年後とかを考えて動く会社なので、未来を見ているんだろうなと。いまの子どもたちや学生さんにもハイエンドの体験をさせたいという発想でやっているんでしょうね。なんか、NVIDIAの宣伝の人みたいになっていますね(笑)。

――(笑)。

原田 ただ、逆に言うと、僕みたいなPCにお金をつぎこみまくっている人からすると「ふざけんな!」というところもあるんです。毎回のようにかなりの金額のグラボを買っているのに、月額いくらかでその環境を使えちゃうんですものね。僕が払っている金額を月割にしても、GeForce NOWのほうが断然得なんですよ。

――まあ、そういう話になりますよね。

原田 半年とか1年に1回は買い換えているわけですからね。この前だってGeForce RTX 2080 Tiを20万円ちょっとで買ったのですが、10ヵ月使うと考えたら月20000円ですよ。それが、GeForce NOWだと月額1800円ですからね。

――ハイエンドクラスのGPUを買うより遥かに安いですね。

原田 GPUは何が使われているのですか?

――現在はNVIDIA RTX T10-8という、ほかでは使われていない独自のGPUが採用されていますね。性能的にはサーバー内での割り当てがあるようなので一概には言えないのですが、RTX 2080 Tiより少し劣る程度でしょうか。

原田 なるほど。それでも個人で買おうとしたらそこそこするGPUですよね?

――ですね。ちょっとパーツ交換しないあいだに自分のPCスペックがGeForce NOWに追い越されたら、PCマニアとしてはもう目も当てられないですね。

原田 まったくです。しかもGeForce NOWはスペックをアップデートしていくわけでしょうからね。ユーザーはその手間も費用も掛からないわけで……。高いお金を払ってグラボ買った人は、エクスクルシブ(独占)期間を設けてほしいです!

――チップの独占期間ですか(笑)。

原田 ハイエンドなPCゲームを遊ぶ環境ってゲーミングPC込みで考えるとけっこうな値段になるわけですが、GeForce NOWなら、それがリーズナブルな料金で誰もが楽しめてしまうわけです。そんなPCマニアの聖域がいきなり低価格で解放されるみたいなことが近いうちに実現してしまうわけで……。

 いまはまだクラウドゲーミングは始まったばかりですが、みんながこういう話を理解して浸透していったら、きっと、いろいろなことが変わるんだろうなと思います。

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GeForce NOWを駆使して『鉄拳7』をアーケードスティックでプレイ。そのスムーズな動きに原田氏もびっくりしていた。

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