
第二次世界大戦後の冷戦時代には、西側諸国を代表するアメリカと東側諸国のソビエト連邦による激しい宇宙開発競争が行われていました。エンジニアのKen Shirriff氏は、ソ連が有人月旅行計画のために開発したロケット「ソユーズ」で使われた時計を分解し、その基板構造を自身のブログで説明しています。
Looking inside a vintage Soviet TTL logic integrated circuit
http://www.righto.com/2020/03/looking-inside-vintage-soviet-ttl-logic.html
実際にソユーズで使われた時計からカバーを外した画像がこれ。上段のLEDディスプレイで時刻を表示し、下段のLEDディスプレイがストップウォッチを表示するとのこと。Ken氏はこの時計は機能に対して非常に複雑な構造をしていると語っています。

時計の基板を開いてみたところ。集積回路の大部分はプリント基板上に直接実装されたチップで構成されています。

時計のチップには1970年代から90年代にかけてよく使用されたTTL回路が用いられています。金属のカバーを外してみると、ボンディングワイヤーがはんだ付けされた小さなシリコンダイが姿を現しました。

シリコンダイを顕微鏡で拡大してみるとこんな感じで、ピンクや紫がかった部分がシリコン、白い部分がワイヤーです。

チップは「134ЛА8」という名前で、1984年に製造されたもの。このチップが開発された当時、ソ連はアメリカに集積回路の開発で約9年間の遅れをとっていたとのこと。そのため、ソ連は西洋の集積回路をコピーすることが多かったそうですが、134ЛА8に関してはソ連が独自に設計したものではないかとKen氏は推測しています。
134ЛА8は出力がオープンコレクタのNANDゲートを4つ備えています。オープンコレクタはトランジスタをスイッチとして利用し、電位を操作する様式のひとつ。トランジスタは「ベース」「コレクタ」「エミッタ」と呼ばれる3つの端子で構成されており、ベースに流す電流を通してコレクタとエミッタ間の電流を操作するもので、一般的には出力を安定させるためにプルアップ抵抗も同時に使用します。このチップには水晶振動子用の回路が1つと、変換用の回路が2つ備わっているとのこと。

シリコンダイを顕微鏡でさらに拡大してみると、その構成がよくわかります。半導体には異なる元素を不純物として加えた「N型半導体」と「P型半導体」があり、電気に対してそれぞれ異なる特性を持ちます。画像は抵抗器を拡大したもので、緑色の部分がN型半導体、赤い部分がP型半導体です。不純物を混ぜた抵抗が高い赤い部分の半導体の長さを調整することで、抵抗値を調整します。

134ЛА8ではNPN型トランジスタを採用しており、ベースにP型半導体、コレクタとエミッタにN型半導体を用いています。ベースのP型半導体に電流を流すことで、コレクタとエミッタ間に電流が流れるようになるという仕組み。

外部出力用のトランジスタは、外部信号を生成するため、他のトランジスタよりもはるかに高い電流が流れるとのこと。その結果、他のトランジスタよりもサイズが大きくなるとKen氏は語っています。画像は134ЛА8の外部出力用トランジスタで、確かに先ほどのトランジスタよりもエミッタやコレクタの端子が大きくなっています。

実装されたNAND回路のひとつを回路図として示したものがこれ。少なくともどちらか片方のインプットが0の場合はトランジスタQ3がオフになります。このとき、アウトプット側の電流は行き場をなくした「オープン」な状態となり、オープンコレクタにおける1を出力します。インプットが両方とも1の場合はトランジスタQ1、Q2、Q3のすべてのスイッチがオンになり、アウトプット側の電流がGNDに流てしまうので、オープンコレクタにおける0を出力するという回路になっています。

実際の回路を顕微鏡で撮影するとこんな感じ。トランジスタをうまく駆使してNAND回路を実装しています。

Ken氏は「このソ連製のチップは回路を簡単にトレースできるほどシンプルです。現在の最新チップでは数十億個のトランジスタが含まれており、非常に多くの機能を備えていますが、このようにチップの中身を視覚的に理解することはできません」と語っています。
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March 22, 2020 at 03:00PM
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旧ソ連のロケット「ソユーズ」の時計はどのような設計だったのか? - GIGAZINE
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