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「触って時間を読む時計」に込めた思い「見える人にも、見えない人にも楽しんで」 - Business Insider Japan

可知節郎さんと長尾見侑さんと視覚障害者対応腕時計

目が見えない人は、どんなふうに時間を知るのだろうか。

スマートフォンに「ヘイ、Siri。時間を教えて」と呼びかけて、読み上げてもらうのだろうか。一緒にいる人に、「ねぇ、今何時?」と聞くこともできるだろう。そういえば、音声で時刻を知らせる腕時計もあると聞く。でももしそれが、騒がしい駅のホームにいるときだったら? 静まり返った大事な会議や映画デートの最中だったら?

3月19日、シチズンから発売される「触って時間を知る時計(AC2200-55E)」は、インクルーシブデザインを採り入れた視覚障害者対応腕時計だ。ガラスの上蓋を開けて、文字板と針を直接指で触り、時間を「読む」。ユニセックスでクールなルックスは、一見すると「普通」の腕時計と変わらない。

この腕時計に、どんな工夫が詰まっているのだろう。企画と開発の担当者に話を聞いた。

タイの盲学校との協力で試行錯誤

もともと、国内で初めて、1960年から視覚障害者対応時計を作っていたシチズン。今回のモデルチェンジには、タイにある盲学校の教職員や生徒たちが開発段階から関わっているという。初めての試みというコラボレーションには、どういった経緯があったのだろうか。

「2017年に初めて新製品開発の話を聞いたときには、僕は恥ずかしながら視覚障害者の方がどうやって時計を読むのかさえ知らなかったんです」

可知節郎さん

シチズン時計株式会社 商品開発本部 商品開発部 外装技術課の可知節郎さん。

そう打ち明けるのは、2012年から6年間タイ工場に赴任していた商品開発本部の可知節郎さん。製品化までの設計や開発など、おもに技術部門を担当した。

「まずチーム全員で既存モデルの時計をつけてみたんですが、我々では時間を読むのがとても難しく感じました」

「どのようにして時計を読むのだろう?」。疑問を抱いたチームは、視覚障害者の生の声を拾うべく、工場のあるアユタヤ県に隣接するロッブリー県の盲学校「ロッブリー複合視覚障害者学校」とコンタクトを取る。

「障害のある方とあまり接した経験がなかったので、我々ははじめとても恐縮していたんです。でもひとりの先生が『目が見えないだけで僕らも皆さんと同じですよ。なんでも聞いてください』とおっしゃってくださって。そこからはあれもこれもと好奇心が出てきて、質問責めにしてしまいました(笑)」

これ、障害者っぽく見えないですか?

開発する中で困難だったのはどんな点だろうか。

「はじめは、彼らに対して、目が見えないのならデザインもあまり気にしていないのかな、という勝手な思い込みがあったんです。でも試作品を持っていくたびに彼らはきまって『これって皆さんと同じ時計ですか? 障害者っぽく見えないですか?』と聞いてくる。彼らもデザインや人からの見られ方というのをすごく気にしているんだな、ということが次第に分かってきました」

試作品をつけ、時間を読むロッブリー複合視覚障害者学校の生徒

試作品をつけ、時間を読むロッブリー複合視覚障害者学校の生徒(写真中央)。判読性やつけ心地などの細かなフィードバックをもらう。

「障害者っぽく見えない」デザイン性と、正確な判読を可能にする実用性。その双方を叶える腕時計とは——。試作品ができるたびに可知さんらは盲学校へ足を運び、判読の時間を測り、地道な聞き取りを行った。何度通っても嫌な顔ひとつせず迎え入れてくれる教職員や生徒たちの温かさが、チームの熱意にも火をつけた。試行錯誤は3年半にも及んだ。

「これまで視覚障害のある方と深くかかわったことのない自分ですが、盲学校の先生や生徒たちと出会って交流する中で、とても身近な存在に感じられました。日本語でたくさん話しかけてくれるなど、私が出会った皆さんは本当に明るくてフレンドリーな人ばかりで

僕らもだんだん皆さんと仲良くなって、『必ずいい時計をつくるよ。つくって、持ってくるからね』って約束をして。その約束があったから、チームも一生懸命になれた。最終的な試作を持っていったときは、本当に喜んでくれました」

その試作品を1年以上、10数人に実際の生活の中で使用してもらい、最終的な改良を加えて完成したのが今回の新製品だ。

高い判読性と、様々なライフスタイルにフィットするデザイン

視覚障害者対応腕時計(AC2200-55E)

視覚障害者対応腕時計(AC2200-55E)。ガラスの上蓋を開け、指で時針と分針、インデックスの位置を確認し、時間を読む。

実際に障害者の声を採り入れ、従来のモデルと変わったのはどんな点だろうか。

まず判読性の向上。時針をより短くし、分針との長短差をより明確にした。あわせて時針用の丸い突起の位置を針に近付け、時間を読む際の鍵となる12時、3時、6時、9時の部分のみ突起を三角形にした。また、1960年の初代モデルからずっと白だった文字板を黒に、インデックスを黒からイエローにチェンジした。弱視者に話を聞く中で、黒とイエローのコントラストが判読しやすい、との知識を得たからだった。

同時に、デザイン性も実現した。文字板は指紋が目立たないよう、ミラー加工でなくマット加工に。12時、3時、6時、9時のインデックスのみカジュアルなフォントのアラビア数字で表記し、文字板やインデックスは、何度触ってもはがれないよう塗装を工夫した。

少し誇らしげに、可知さんは笑う。

「この時計を触って、僕も今では15秒くらいで時間を読めるようになりました」

シチズンの視覚障害者対応腕時計の歴代モデルの一部

シチズンの視覚障害者対応腕時計の歴代モデルの一部。左から、1960年、1967年、1986年、そして2020年の発売。1960年の初代モデルは、蓋を開けて何度も文字板を触れられたり、経年などで変色してしまったという。

入社を決めた運命の出会い

「シチズンに入社を決めたのは、視覚障害のある社員との出会いがきっかけだったんです」

そう話すのは、今回の新製品開発に企画担当として広く関わった長尾見侑さんだ。

長尾見侑さん

シチズン時計株式会社 営業統括本部 事業企画部 シチズンブランド推進室の長尾見侑さん。

就職活動中だった大学3年生のとき、社会人訪問を希望してシチズン本社を訪れた長尾さんを迎えたのが、当時人事部に所属していた一人の男性社員だった。

「『どうしてこの会社を選んだんですか?』って聞いたら『じつは僕は弱視で目がよく見えないんですよ』と返ってきた。教えられるまでまったく気づかず、『なんとなく目が合わない気がするけど、シャイな方なのかな』くらいに思っていました」

驚く長尾さんに、彼は「こんな僕ですが、僕という人間を一番見てくれたのがシチズンだったんです」と続けた。

「『なんていい会社なんだろう』と感動したんです。彼の話からは、他の社員に溶け込んで生き生きと働いている様子が伝わってきました。それでシチズンを第一志望に決めたという経緯があったので、今回視覚障害者対応腕時計の新製品開発の話が来たときにも『ぜひやらせてください』と答えました」(長尾さん)

思いやストーリーを、しっかりと発信したかった

従来、視覚障害者対応腕時計の新製品は「誰にも知られずにひっそりモデルチェンジして、カタログにただ載せるだけ」(長尾さん)という程度のものだった。でも長尾さんはそれだけでは終わらせなかった。

この時計は健常者の方も視覚障害者の方も、垣根なくファッションとして楽しんでもらいたいという思いがあります。可知さんら開発者の思いや盲学校の皆さんのストーリーを発信していくことで、視覚障害のある方への理解にもつながる。だから、しっかりと発信したかった」

長尾さんは専用のホームページや、開発ストーリーを紹介するショートムービーの制作を提案し、実現にこぎつけた。

「この時計を使うことで、視覚障害者の人って、こういう生活をしているんだ、こういう価値観を持っているんだな、と新たな発見がいっぱいあると思うんです。障害の有無にかかわらずあらゆる方に使ってもらうことで、色々な背景を持つ人が寄り添う共生社会を少しでも推進していきたいですね」

盲学校の人々の声を可知さんのチームが拾い、開発チームの思いを長尾さんが拾って、リレーのバトンのように人々の思いをつないで生まれた時計。忙しい毎日にこの時計を手にとって、時間を「触って読む」を習慣にしてみたらどうだろう。ひととき集中した指先から、見えてくる世界が少し広がるかもしれない。

可知節郎さんと長尾見侑さん

可知節郎(かち・せつお)さん
シチズン時計株式会社 商品開発本部 商品開発部 外装技術課 課長。2002年入社。新製品開発、中国工場勤務などを経て、2018年までタイ駐在。主に、新製品開発や工場生産技術などを担う。現在は帰国し、商品開発部 外装技術課にて、新製品の開発業務に携わる。

長尾見侑(ながお・みゆき)さん
シチズン時計株式会社 営業統括本部 事業企画部 シチズンブランド推進室。2009年入社。販促や営業部門を経験後、6年間商品企画として従事。主に、レディスブランド『xC(クロスシー)』のブランドマネージャーを担当。現在は現部署にて、時計事業のシチズンブランド全体の戦略や企画に携わる。

シチズン 触って時間を知る時計

撮影/柳原久子、取材・文/中村茉莉花(MASHING UP編集部)

MASHING UPより転載(2020年03月19日公開

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