米テキサス州で建設が進む巨大な「1万年時計」は、1年に1回だけ針が進む。資金を投じるジェフ・ベゾスいわく「長期的思考の象徴」というこの作品は、誰に向けられたものなのだろう。差し迫った問題に向き合うわたしたちの役に立つのか、一考の価値がある。
米テキサス州にある山の地下で、大時計の建設が進んでいる。1年に1回だけ針が進み、1万年後まで時を刻み続ける時計だ。インスタレーション作品として考案された。長期的思考の象徴として見る者の感性を刺激し、自分が歴史という長い物語のなかにいることを意識させる狙いがある。だが、わたしの考えでは、この時計には深刻な想像力の欠如が象徴されている。人類による気候の不安定化という災厄が迫っているのに、いまを生きるテクノロジー界の富豪たちは暗い現実に目を向けていない。この時計は、そうやって都合の悪いことを無視する姿勢を物語っている。それどころか、社会の混乱の影響が万人に対して平等でないことをも示唆している。
時計の名前はひとつではない。「ミレニアム・クロック」と呼ぶ人もいれば、「ロング・ナウの時計」と呼ぶ人もいる。米アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは「1万年時計」と呼んでいる。建設地の山を所有し、推定4,200万ドル(約45億円)の費用を出していることを考えれば、彼の呼び方が正式名称になる可能性は高い。一方、時計はダニー・ヒリスという人物が考案したものだ。一種の物理的な記念碑として、草創期のインターネットブームを特徴づけた能天気で楽天的な未来主義思考を追憶させる。ヒリスは1995年、『WIRED』US版誌上で「1年に1回針が進む時計をつくりたい」と書いた。「短針は100年に1回進み、千年紀が変わるごとに1回、ハトが出てくる(中略)急いで完成させれば、初めてハトが出るところを見られるはずだ」と。
ヒリスはプロジェクトの目的を次のように説明している。
未来を想像することはできないが、関心はもっている。わたしは自分が物語の一部であることを知っている。わたしが覚えているよりずっと前に始まり、わたしを思い出す人がいなくなってからもずっと続く物語だ。自分が重要な変化の時代に生きているのを感じるし、その変化をよい結果につなげる責任があると思っている。わたしは収穫のときまで自分が生きていないのを承知のうえで、種を植える。わたしは未来に希望をもっている。
「WIRED SCENARIOS: – The Millennium Clock Danny Hillis」より
素晴らしい決意だ。過去四半世紀、デジタル技術を原動力とする社会・経済のディスラプションの時代は「速く動き、破壊せよ」の気風に特徴づけられてきた。彼の言葉は、それに対抗しているようにも思える。だが、これは空疎な挑戦というものだ。時計を訪れた人々は、悠久の時の流れに思いを馳せるだけでなく、わたしたちが支配する世界の危険な先行きから目をそらし、気晴らしをすることもできてしまう。
1996年(関係者たちは「01996年」という表記をお好みだが)、ヒリスはシリコンヴァレーの友人数人と「ロング・ナウ協会」という非営利組織を設立した。協会は時計建設の技術的な詰めにとりかかり、どんな部品なら1万年先まで壊れず動き続けるのか、どういう仕組みで動かすのか、どうやって劣化を防げばいいのかを検討した。99年1月には、未完成ながらプロトタイプの第1号が披露された。ダヴォスでの世界経済フォーラム年次総会でのことだ。この機はミレニアム直前の12月31日に時を刻み始め、2000年に英ロンドンの科学博物館に設置された(1000年ごとにハトを出す構想はベルを2回鳴らす仕掛けに変更された。また、文字盤は映画『スタートレック』の宇宙艦隊の最新版ロゴマークに似ている)。『WIRED』US版はことあるごとにプロジェクトの状況を伝えた。その間、テクノロジー界のエリートを支持してやまない未来主義者たちはこの時計を称賛し、ヒリスたちをよりよい明日を生み出す天才と呼んだ。要するにこの時計は、超富裕層の、超富裕層による、超富裕層のためのアート作品なのだ。
ヒリス自身、コンピューター科学者であり、発明家であり、パラレルコンピューティング(並列計算)の草分けでもある。『WIRED』US版は11年の彼とのインタヴューで、がん研究を促進するため共同創業したバイオテクノロジー企業「アプライド・プロテオミクス」ではなく、時計に力を入れることの正当性はどう説明しうるのかと尋ねた。彼は「これは、わたしにできるなかで最も重要な仕事だと思う」と応じ、「がんよりも重要だ。長い目で見れば、より多くの人に、より多くの違いを生み出すだろう」と語った。
結局のところ、がんは「いま」「ここ」の問題だ。しかし、ジョン・メイナード・ケインズが言った通り、「長い目で見れば、人はみな死ぬ」のである。
「ロング・ナウ」にフォーカスすることのリスク
ロング・ナウ協会の共同創設者、ケヴィン・ケリーは、時計建設をとりわけ声高に支持してきた。ケリーは『WIRED』US版の初代エグゼクティヴエディターでもあり、いまも本誌に寄稿している。黎明期のシリコンヴァレーでは厚顔無恥なほどのテクノオプティミズム(技術楽観主義)が浸透し、つい最近まで広く共有されていたが、ケリーはそうした価値観の熱心な広告塔だった。
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