
最近はもっぱら古いIWCの手巻きを使っている。これは18K金の防水ケースに入った小ぶりな時計で、調べた限りで言うと、1940年製である。文字盤も金仕上げだから、当時の定価は、かなり高かったに違いない。文字盤には「EMIL KOFMEHL ZURICH」とあるから、チューリヒの名ジュエラー、エミール・コフメール-スタイガーで売られたものだろう。ひどく痛んでいたが、大枚をはたいてようやく元に戻った。 この時計はかなり面白いつくりをもっている。筆者の知る限り、キャリバー83という手巻きの機械を、金の「Hermet(ハーメット)」防水ケースに収めた例はほとんどない。特注ではないが、よほど珍しいものとは言えるだろう。こんな時計を扱えるエミール・コフメールはさすがに名門だし、買った人も、よほどの金持ちだったに違いない。しかも1940年に、である。古い時計とコロナにどんな関係があるんだ、と言われそうだが、もう少し話をつづけたい。 1939年にはじまった第2次世界大戦は、「まやかし戦争」を挟んで、翌40年には名実ともに世界大戦に姿を変えた。5月にはドイツの機甲師団がアルデンヌの森を抜けてベルギーとフランスになだれ込み、6月にはパリがドイツに降伏。22日にはフランスがドイツと休戦協定を結んだ。そして9月には、ドイツと日本、そしてイタリアが三国同盟を締結した。ヨーロッパ全域が戦争で麻痺しつつある時期に、チューリヒのジュエラーで高価な金時計を買った人物は、一体何者だったのか?
元の持ち主は何者か
かつては「楽しい空想」でしかなかったが、コロナ禍が拡まるにつれて、持ち主への興味はどうにも抑えられなくなった。ドイツの機甲師団に封印されたパリは、コロナで外出が許可されない今のローマやニューヨークであり、四方を枢軸国に囲まれて、身動きの取れなくなったスイスは、今の日本や台湾のようなものだろう。となると、1940年のチューリヒは、たとえるなら今の東京だろうか。直接“戦争”の被害を受けたわけではないが、遠くに爆撃の音を聞きつつ、身動きが取れないまま、皆じっと家に閉じこもっている。 そんななか、豪奢な金時計を買った元の持ち主のことは、真面目に考えてみる価値がありそうだ。彼の行動を今にたとえるなら、2020年の銀座で、パテック フィリップのミニッツリピーターを買うようなものである。仮にお金があっても、よほどの理由がなければ、高価な金時計を買おうとは思わないだろう。 もっとも、元の持ち主が何者だったのかは、時計を見ればある程度想像が付く。戦時中、IWCは金ケースの時計を数多くつくっていたが、購入者(おそらく男性)が選んだのは、特別な防水仕様だった。この時代に、防水時計が一般的でなかったと考えれば、購入者はアクティブなビジネスマンか、あるいは将校ではなかったか。資産価値を考えたら金の懐中時計を選ぶはずで、あえて小さな腕時計を選んだのは、実際使うためだろう。
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June 18, 2020 at 06:23PM
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戦禍を生き抜いたアンティークのIWC──コロナ禍下の時計の話(GQ JAPAN) - Yahoo!ニュース
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