都内の大手広告代理店で働く東松寛文さんは、週末に世界中を旅する「リーマントラベラー」として旅の魅力をSNS(ネット交流サービス)などで発信し、人気を集めています。かつては典型的な「会社人間」だったという東松さん。そんな生き方を一変させた旅の魅力と、最終的な夢とは――。【岩本桜】
――リーマントラベラーとして活動するようになった経緯を教えてください。
元々はただのサラリーマンで、旅すら興味がなかったんです。社会人3年目に、終電で帰っている時に米プロバスケットボールNBAの試合結果をネットで見ていたら、7000円くらいでチケットが買えると知りました。当時は超激務で休みを取ることすらままならなかったので、手元にあるだけで宝物になると思ってチケットを買いました。でもチケットが届くと、「使わないのはチケットが可哀そうだ」と思うようになりました。
当時は休むことが良いことだと思っていなかったし、会社での評価が全てだと思っていました。意を決して上司に相談したら「1日だったら休んでいいんじゃない?」と言われ、初めて1人で海外旅行に行きました。片言の英語で何とかなり、3泊5日の短い休みでも楽しめることに気付きました。
アメリカでは平日に昼間からお酒を飲んだり、ビーチでのんびりしたりする大人がいっぱいいました。自分を思い返すと、平日は死ぬほど働き、夜は飲みに行ってタクシーで帰るような生活。アメリカへ行って「こんな暮らしがあるんだ」と気付き、翌年から年間8回は海外旅行に行くようになりました。
一番印象に残った旅はキューバです。治安などを不安視していましたが、現地の人はとても優しかった。「ご飯を食べに来なよ」とごちそうしてくれたり、目が合ったお姉さんからダンスのレッスンを受けたり。水たまりにはまった時は、近くにいたおばさんが靴を洗ってくれました。
僕は「こんな大人がいるんだ」と、いろんな人の生き方を見たくて世界中を回っていたことに気付きました。それまでは「勉強して大学に行き、就活して社会人になる」というレールからはみ出さない方が良いと思っていましたが、世界を見たことで「いろんな生き方をしてもいい」と学びました。それを知ってほしくて、2016年からリーマントラベラーとして活動を始めました。
――旅に出る時のスケジュールを教えてください。
金曜に仕事が終わったらそのまま空港に向かいます。東南アジアなら土曜の朝には現地に着きます。土日は楽しんで日曜の夜に現地を出発し、月曜に日本に着いたらそのまま出社する。それがリーマントラベラースタイルです。
東南アジアだけではなく、オーストラリアくらいなら余裕で行けます。ただ、僕は休みが取れなかったからそうしているだけなので、まねをする人は1日か2日、足した方が絶対に楽しいです。
――平日働いて週末に旅行するのは疲れませんか?
めっちゃ疲れます(笑い)。疲れるんですが、心は回復しています。好きなことを思いきりやった週末と、だらだら過ごした週末とでは、どっちが翌週頑張れるかって話だと思っていて。土日に家でだらだらするのも好きですが、海外旅行の方が楽しめるし、非日常を味わえて心がリフレッシュできます。
――旅を始める前は、どういう働き方をしていましたか。
当時は仕事が人生の中心で、「会社の中で評価されないと人生終わり」という価値観でした。そういう働き方ができたのは、他の選択肢を知らなかったからだと思います。
休みの日も仕事をしていました。金曜の夜遅くから飲みに行って朝に帰り、昼過ぎまで寝る。夕方からまた飲み会があり、それまで時間があるから仕事をする。休日は平日のために休んでいて、土曜は平日の疲れを取ろうと寝だめしていました。人生の主体が自分というより会社で、会社のために働き、休むと考えていました。
――世界を旅するようになって、働き方や考え方は変化しましたか?
一番大きな変化は、人生の中心が仕事や会社から自分に変わったことです。決して自分勝手に仕事をするということではなくて、自分の時間も大切にするということです。そう思った時に、休みを自由に使えるなら海外旅行に行っても良いかと考えが変わりました。
仕事も自分のためにやっていると思うと、好きなことや得意なことをたくさんやりたいし、苦手なことや嫌いなことは極力減らしたいと思うようになりました。休み方を変えたら働き方が変わって、働き方が変わったら生き方が変わりました。
――著書には、旅に出るために職場で“根回し”をするとありました。
休みを取るのは権利ですが、そう思っていない人には通用しないので、休みを申請したり上司に伝えたりする時は上司の顔色をうかがうなど、タイミングをよく考えます。突然休む人と思われるよりは、根回ししながらタイミングを見計らった方が休みやすいです。
適切な伝え方もあると思います。例えばどうしても行きたいライブがあった場合、「ライブがあるので休みます」と突然伝えるよりは「何とかチケットが取れて……」といったように理由を説明して休んだ方が心象は良いですよね。
――仕事を辞めて旅に専念する選択肢はないのですか。
僕がやりたい旅は、会社員のままでもできると思っています。会社員でも可能な範囲で休めるし、旅行にも行けるのであまり不満は無いです。
会社員のメリットも多いと思っています。まずは安定的に給料がもらえること。毎月お給料が振り込まれるので、その範囲であれば自分の好きなことに投資ができます。逆に言えば失敗しても良いし、リスクは無い。会社員は何かをチャレンジする上で最強の職業です。
会社員として発信することで、ある程度の信頼も得られると思いました。旅人が伝える場合と、平日働きながら旅している人が伝える場合、僕ならどっちの話を聞くかなと思ったら後者です。日本人の多くが会社員なので、共感してくれる人はたくさんいるのではと思いました。
会社員のままやりたいことを続けていきたいし、最終的には会社員として宇宙に行きたいですね。会社員だからできないチャレンジって、今のところはないです。
――今後はどういったメッセージを発信していきたいですか。
世界一周や本の出版など、今まで自分ができないと思っていたことがたくさんありました。でも、自分の思い込みを取り払って動いたことで、どんどんかなっていきました。僕が海外旅行で見てきた大人のように、僕を見て「会社員でもこんなことしていいんだ」と思ってくれる人が一人でも増えたら嬉しいです。
東松寛文さん
1987年、岐阜県生まれ。神戸大経営学部卒。社会人3年目で旅の楽しさに気づき、2016年には3カ月で5大陸18カ国を回り、世界一周を達成した。著書に「週末だけで70ヵ国159都市を旅したリーマントラベラーが教える自分の時間の作り方」(Gakken)。
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