実は、ぼくの暮らす田舎のアパルトマンから、そう遠くない場所にモンサンミッシェルがある。
もっとも、歩いては行けないのだけれど・・・。
モンサンミッシェルに近づきたくて、ノルマンディにアパルトマンを購入したのかもしれない。
モンサンミッシェルの前に立つと、やっぱりすごい、と心と魂が揺さぶられる。
モンサンミッシェルに上ると、奇妙な経験とイメージに意識が揺さぶられるのである。
その頂上に立ってみると、世界がまったく違って見えるのである。
告白するならば、ぼくはモンサンミッシェルを愛している。
モンサンミッシェルは一時間ごとに顔を変える。しかも季節ごとに姿を変える。
毎年違った表情でぼくを出迎えてくれる。
そのフォルムの美しさといったら、表現のしようがないほどだ。
もし、まだ訪ねたことがないのであれば、一度はモンサンミッシェルに行ってみるといい。
何度も通ったぼくが言うのだから、それは間違いなく素晴らしい思い出をもたらす。
そこには、モンサンミッシェルの奇跡がある。
モンサンミッシェルに行くと、なぜか詩人になってしまうのだ。
目の前にそびえるモンサンミッシェルを見上げながら、なぜだろう、ぼくは詩人になってしまうのである。
モンサンミッシェルはいつも違った貌(かお)でぼくを出迎えてくれる。
ある時は、朗らかで、柔らかいまなざしと微かな微笑みを湛えて、
ありとあらゆるものを赦し、そこにきつ然と佇んでいる。
でもある時は近づき難く、見抜かれそうで、ぼくは幾度と引き返したくなる。
目を閉じ、その神々しい姿から目を背けて。
またある時は、蜃気楼のよう、追いかけても追いかけても追いつけない逃げ水。
ぼくは遠くからただじっとその尊い姿を見つめることしかできない。
なのに、ある時はため息ばかりついて、とっても詩的で、幻想そのもの。
ぼくは思わずうっとりして、時を失い、人生の労苦を忘却してしまう。
自分がどこからやって来てどこへ行くのか分からなくなる時、
なぜかいつもここにいる。
うつろう時や、悲しい記憶や、幸福の欠片とか、見えそうで見えない風とか、
あの日の淡いひかりの残滓なんかを、ちょっと慈しんだりしながら。
ある時、ぼくは告白するためにここに立つ。
もう一度、生き直してみたい、と。
渡仏して20年、何度も、ぼくはモンサンミッシェルを訪れた。
そして、モンサンミッシェルを前にして、ぼくはなぜか記憶をたどるのだった。
世界は風化していく。
ぼくはいつか滅びる。でも、ぼくが消えた後も、この建造物は残り続けるのであろう。
モンサンミッシェルの頂上に登ると、そこには驚くべきことに空中庭園が存在していた。ぼくはその回廊の中ほどで、正気で、この詩を紡いだのである。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ぼくが、数年前に、モンサンミッシェルで歌った動画があります。
この日、ギターを持って訪れると、海の水が消えて、海底が広大な荒野のように広がっていました。
ぼくは沖までギターを担いでいき、カメラを固定し、たった一人で、歌ったのです。
聞いてきださい。
「故郷」
という曲を・・・。
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ささやかな、お知らせです。
次の地球カレッジは、1月29日、日曜日になりました。参加を希望される皆さん、以下をご参照ください。
「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
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