
特別に先を急いでいる旅ではなかったが、ポールさんはフランス大使館の仕事の遅さに幻滅させられていた。
<4月21日、フランス大使館に電話を掛けてみたが、何の反応もなかった。zuzu用のカルネや諸国のビザなども、まだだった>
児童書の挿絵のほかにも、ポールさんは絵を描いていた。それまでの旅の途中で出会った光景やコルシカの風物などを思い付くまま1枚ずつ描いていた。
児童書のように、発注主の注文に応じた絵ではなく、描きたいものを描いていた。描き溜めておくのは、やがてどこかで個展を開くためであり、そこで販売して旅費を稼ぐためでもあったが、時間と気持ちにふと余裕が生まれたりすると絵心が刺激されたのかもしれない。
<絵がどんどん描き上げられていくのは良いのだが、ビザもカルネも音沙汰がないのは困った。毎日、雨が降っている。今日は中国人の家族と晩ご飯を食べた。チキンとナッツを炒めたものが美味かった。野良猫を家に入れたら懐いてきて、一緒に眠った>
猫を撫でながら、ポールさんは一年前のことを思い出していた。1年前は、ヨルダンのアカバという紅海沿いの港町に滞在していたのだ。
正直な心情が道中日記に記されている。
<早くこの旅が終わらないかな。個人的には、もう結構。十分に旅してきた。ここで終わらせたいけれども、無理だろう。なんとか続けなければ>
ビザやカルネも発給されず、絵も売れない。雨に降られるなかで悶々とした毎日を送っていたポールさんに、4月下旬に入って吉報がふたつもたらされた。
ひとつは絵の個展の開催決定で、もうひとつは大使館からパスポートが増ページされて戻されたことだった。
<4月28日、アリアンスフランセーズに行って、個展の話をした。ここの部長は良い人で、個展をさせてくれることになった。彼には絵を1枚あげた>
アリアンスフランセーズというのは、フランス政府から公認と助成を受けた、フランス語とフランス文化の教育を行う非営利団体である。1883年に創設され、2019年にはフランス全土に28校、世界138カ国に1000校以上の規模を誇っている。日本では、アンスティチュ・フランセ日本(旧・日仏学院)が相当する。
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