この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2024年1月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
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この記事は、地球資源の保全に取り組んでいる非営利組織ナショナル ジオグラフィック協会の資金協力によってつくられています。
カナダ南部からメキシコまで大陸を縦断する壮大な渡りをするオオカバマダラ。気候変動と生息地の喪失によって個体数が減少するなか、このチョウを愛する人々は保護活動に懸命に取り組んでいる。
10月のある晴れた日、米国テキサス州の山あいで、一人の男性が即席の作業台に身をかがめていた。
オオカバマダラの美しい羽を親指と人さし指で器用に挟み、紙やすりの細片を胴体にすべらせて、微細な毛をそり落とす。
その男性、アンドレ・グリーン2世は研究仲間とともに、狩猟小屋の一つを借りて調査基地にしていた。小屋の壁には猟獣の剝製がずらりと並ぶが、グリーンは目もくれない。米ミシガン大学の生態学および進化生物学の教授で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある彼の関心は、その日捕獲した30匹以上のオオカバマダラに向けられている。
グリーンは羽の間にエポキシ樹脂を1滴たらすと、チョウに特製のセンサーを装着した。極小の太陽光パネルとコンピューターチップで構成される装置だが、重さは米粒3つに満たない。部屋にチョウの静かな羽ばたきの音が響く。
オオカバマダラはこれから仲間とともに1300キロ南下して、メキシコ中部の山岳地帯を目指すことになる。グリーンらはそれを見越して、数週間後にメキシコに向かい、そこでセンサーからの信号を探す。センサーは渡りのルート上の光と温度の情報を記録している。ほんの1、2匹からでもそのデータを受信できれば、渡りの経路を割り出すのに役立つのだ。
北米ではオオカバマダラを愛する人々がボランティアとしてこのチョウの調査に協力している。それはグリーンらの調査でも同じだ。オオカバマダラが飛ぶ速さはちょうど自転車ぐらいなので、グリーンの研究仲間はサイクリストにセンサーを装着した状態で数日にわたって走行してもらい、精度を検証した。グリーン自身も研究室での実験を通じて、センサーがチョウの飛行を妨げないことを確かめた。こうした準備を重ねて、最新型のセンサーはいよいよ本番を迎えることになった。
センサーの装着を終えたグリーンは、革張りの大きな椅子に身を沈め、ケージの中のオオカバマダラを観察する。「メキシコで信号を拾えたら、取りあえず今年は良しとします」。有効なデータを得るのは、数年にわたって試行錯誤を繰り返す長期戦になるだろうが、グリーンは辛抱強い。「今回は渡りの仕組みを理解するまたとない機会です」と科学者らしい控えめな表現で意気込みを語った。
外が涼しくなってきた頃、グリーンは小屋からケージを運び出し、小川のそばにある木立まで下りていった。それはペカンというクルミ科の高木の林で、何百匹というオオカバマダラが傾いた日差しを受けて飛び回っている。グリーンはセンサーを着けたオオカバマダラをケージから出すと、ガラス細工を扱うように1匹ずつそっと低い枝に乗せていく。
うまくいけば、翌朝にはセンサーとともに南への旅を再開してくれるだろう。
米粒3つに満たない重さのセンサーをオオカバマダラに装着するアンドレ・グリーン2世。(VIDEO: THOR MORALES)
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