特別なことは何もしない八ヶ岳の旅 宇賀なつみがつづる旅(32) - 朝日新聞デジタル

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回は八ヶ岳のふもとに宿泊。道中、無計画が故のうれしい出来事が続きます。

「ちょうどいい　八ヶ岳」

新型コロナウイルスとの共存を余儀なくされ、
旅の仕方も大きく変わってきた。

なるべく人の少ない場所へ、
なるべく自然豊かな場所へ。

都心から少し離れたところに、
家を買うのもいいかもしれないと、
ぼんやり考えるようになった。

そんな時、うれしいご縁で、
月額5.5万円で自然の中にもう一つの家を持つ、
サブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」に、
試泊させてもらえることになった。

2022年3月の終わり。
私は、まだ寒さの残る八ヶ岳へ向かった。

いつも通りの朝。
洗濯と掃除を済ませて、メールチェックを終えてから、
友達を拾って、そのまま中央道にのった。

高速を走りながら、助手席の彼女が、
スマホ片手にお店を検索してくれる。

ランチはピザか、おそばも良さそう。
ディナーは気になるガストロノミーがあって……

散々盛り上がった後に気がついたのは、
オフシーズンの火曜水曜は、どこも休みだということ。

結局何も決められないまま、
午後2時ごろには、八ヶ岳に着いていた。
遠すぎず近すぎず、ちょうどいい。

とりあえず車を走らせていると、
人がたくさん集まっている倉庫のようなものが見えて、
一度通り過ぎたが、引き返してみた。

近づいてみると、中は満席。
お好み焼きとナチュールワインのお店だった。

ナイフとフォークでいただく、おしゃれなお好み焼き。
すっかりおなかが満たされたので、
「SANU 2nd Home」へ向かった。

到着するとちょうど15時。
スマホでチェックインすると、暗証番号が表示され、
玄関の鍵を開けることができる。

キャビンに入ると、心地良い木の香りに包まれた。
興奮して、つい大きな声を出してしまう。

高い天井に大きな窓。
奥には木々が見える。
建材の全てに国産の間伐木を使用しているそうで、
自然のぬくもりを感じられる空間だった。

初めて来たのに、家に帰ってきたみたい。
広すぎず狭すぎず、ちょうどいい。

家具や家電など、必要なものはそろっているけど、
華美な装飾や演出はなくて、全てが最低限。
それがとても心地良かった。

鳥の鳴く声を聞きながら、
そのままダラダラと過ごした。

お昼にしっかり食べたので、
夜はキッチンで簡単なものを作ることにする。
近くの市場で地元の食材を買い込んだ。

外に出ると、辺りは真っ暗。
街灯もないので、ライトの明かりだけを頼りに進む。

「温泉でも入って行こうか」
どちらともなく言い出して、近くの温泉に寄った。

広い露天風呂で、たわいもない話をした。
頭の上には星が見える。
星空を見上げて温泉につかるなんて、いつ以来だろう。

戻ってから、時間をかけてゆっくり食事をした。
ワインを飲みながら、お気に入りの音楽をかけて、
ストーブの炎をずっと眺めていた。

午前中は、いつも通り家にいたのに、
いつの間にか、全然違う世界にいた。

翌朝、鳥の鳴き声で目が覚めた。
ぐっすり眠ったようで、体が軽い。

簡単な掃除やゴミ出しをして、10時チェックアウト。
しっかりした掃除やシーツ交換は、後でしてもらえるそうだ。
便利すぎず不便すぎず、ちょうどいい。

そこから近くの滝を見に行ったり、
美術館を2カ所まわったりして、あっという間に15時。

「そろそろ帰ろうか」と話して、
インターチェンジに向かっている途中に、看板を見つけた。

神代桜（じんだいざくら）？

なんだか聞いたことがあると思って調べてみると、
つい数日前に放送されたラジオ番組で話題になった、
推定樹齢2000年ともいわれている桜のことだった。

急きょ行き先を変更して、看板の案内通りに進む。
途中で少し迷って遠回りしたけど、
猿の群れに遭遇できたのでラッキーだった。

駐車場に車を止めて、にぎわっている方に歩いて行くと、
満開の神代桜が迎えてくれた。

枝が折れ背丈は低くなっているぶん、
横に大きく広がっている。
堂々たる姿に、歴史を感じた。

満開の桜を見上げて、美しいと思う人の心は、
どんな時代も、どんな国でも、同じはずなのに。

今ここにこうして生かされていることの意味を、
改めて考えなくてはいけない。

たった1泊2日。
計画を立てなかったからこそ出会えたものが、たくさんあった。

特別なことは何もしていない。
だから、ちょうどいいんだ。

Adblock test (Why?)

from "旅" - Google ニュース https://ift.tt/Yygnf2l
via IFTTT

Bagikan Berita Ini