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かわいい“社員”には旅をさせよ

皆さん、「1人旅」好きですか?日々の仕事から逃避して、知らない場所で1人でワクワクと…。そんな方も多いかもしれませんが、なんと、その1人旅を会社の新人研修に取り入れた企業があるというのだ。それにしても、ユニークすぎるこの研修。でもこれは、いたって大真面目な取り組みなのだ。(松江放送局記者 三井蕉子)

「研修のきっかけは?」社長を直撃!

いったいどんな研修なのか?
そもそもなぜ始めたのか?

疑問だらけのまま調べ始め、わかった詳しい内容はこうだ。

会社が新人社員に渡すのは、全国の在来線が乗り放題になるJRの「青春18きっぷ」。そして、飲食費や宿泊費として、1日1万円分の資金。

この切符と資金を使い、全国どこへでも、5日間の1人旅に出かけてもらうというものだ。

研修を始めたのは、山陰を拠点とする家電メーカー。

発案した社長のもとを訪れると、研修のカリキュラムを記した大量の資料を提示された。何やら相当本格的だ。話を聞いて見ると、開口一番、こんなことばが返ってきた。

渡部社長
“かわいい子には旅をさせよ”ということばを体現しました」

発案のきっかけは、就活生から最終面接のときに多く寄せられた質問だったという。

渡部社長
「就活生の10人に8人くらいが、『入社までに何をしたらいいですか』って質問してくるんです。そういうとき僕は必ず『旅に出よ』と言い続けてきました。いろいろな景色を見て、人と出会い、自分の幅を広げてほしい、と」

この会社の新人社員には高卒も多く、1人で飲食店に入った経験すらない人も多いそうだ。

“もっと人生経験を豊かに、見識を広げてほしい”

会社としては、専門的なスキルを身につける研修とは別に、この“1人旅研修”を設けることにしたのだという。

課された多数の「ミッション」その“ねらい”

全国どこへでも行っていい。

とはいえ、新人社員を好き勝手に野放しにするわけではない。そこはやはり“研修”だ。

実は、難易度の高いさまざまなミッションが課されていた。それぞれにねらいがあるという。

ミッション1 事前に旅程を提出

立ち寄る駅や発着時刻、宿泊先のキャンセル規定まで、あらかじめ事細かに調査をさせ、出発の2週間以上前に提出することが義務づけられる。

自分で旅を計画する『企画力』に加え、トラブルでスケジュールが狂った時にそれを立て直す『修正力』を身につけてもらうのだという。参加者の中には、ホテルなどを利用せず、毎晩飛び込みで民泊したつわものもいたそうだ。

ミッション2 SNSに毎日投稿

研修中は、会社が管理するSNSアカウントに、最低1日1回はその日の出来事を投稿する。

社員の居場所を確認できるようにするとともに、人との出会いや見た景色をどのようにアピールするのか。社内だけでなく、社外にも向けた『発信力』につなげてもらうねらいがあるそうだ。

ミッション3 毎日10人以上、地元の人に声をかける

これが最も難易度の高いミッションなのではないかと感じた。

ただ、会社側としては、見ず知らずの他人との『コミュニケーション能力』を磨いてもらうことを最も重視しているという。

渡部社長
「人間対人間から養うものはたくさんあると思います。今の子どもたちは“0”か“1”かのデジタル世代ですが、あえて、アナログの世界を骨の髄まで経験してもらいたい。そして、自分で考え、悩み、解決していくプロセスを経験してほしいです」

新人研修にプチ密着!

なるほど、発案のきっかけ、研修のねらいは分かった。

では、この研修に本当に効果はあるのか。1人の新人社員に“プチ密着”して取材することにした。

相見悠力さん、19歳。高校卒業後、去年春に就職したばかりの新人社員だ。

担当業務は、家電修理の電話対応。顧客から家電の不具合を細かく聞き取り、実際に修理に行く先輩社員に伝えるという、まさにコミュニケーション能力が問われる業務だ。

研修では、“人から話を聞き出す力”を養いたいという。

新人社員 相見悠力さん
「1人旅の経験は全くなく、それに、こんな1人旅なのですごくドキドキしています。とても人見知りなので、他人に話しかけるのは苦手ですが、地元の人にしっかり声をかけていきたいです」

こちらが、相見さんが立てた5日間の旅行計画。

鳥取県内の自宅を出発して、近畿・四国をめぐり、5日間で6県を回るという壮大な旅路だ。

研修初日。まずは最初の目的地・和歌山県を目指す。マイカー利用が日常の相見さんにとっては、鉄道を使うのも“非日常”だ。

鉄道の在来線を何度も乗り換えていく背中には、若干の不安と緊張もみられた。

最初の経由地、兵庫県新温泉町の浜坂駅に到着すると、早速、最大のミッション「毎日10人以上、地元の人に声をかける」が待っている。

旅先を紹介してもらおうと、見ず知らずの地元の人に話かける相見さん。

紹介されたのは、日本海を一望できる高台だった。

相見さんはその“絶景”を撮影し、ミッションの1つとして、会社のSNSに投稿。

「兵庫県でも日本海側の地域は“山陰”と呼ぶ」という地元の人のことばも添えられていた。鳥取県出身の相見さんには、それも小さな新発見だったようだ。

その後、大阪駅で乗り換えに失敗するハプニングにも見舞われつつ、なんとか、和歌山県にたどりついた。

その夜、宿泊先のホテルから、ほっとした表情でこんなメッセージを送ってくれた。

相見さん
「失敗も1人旅のいい経験だと思います。近所の人にお勧めの場所を聞いて、目的地まで行って帰って来られたのは、2日目以降旅をするためにも、いい経験になりました」

“聞き出す力”を養う

研修2日目。和歌山県有田川町で訪れたのは、特産のみかん農家だった。

この日は、農家の男性を相手に“聞き出す力”をさらに養おうと、初日よりも意識的に会話を深めていく様子が見て取れた。

農家をいつから始めたのか。天候や動物に悩まされていないか。

次々と質問を重ねていく相見さん。知らない土地で、知らない人から、知らない話を聞き出す。

人見知りだという相見さんだったが、少しずつ、研修の手応えを感じ始めているようだった。

そして職場へ 果たして効果は?

こうして5日間の旅を終え、相見さんは職場に戻った。

改めて取材に訪れた日、研修の総決算として冊子にまとめた“旅の日記”を見せてくれた。

「毎日10人以上に話しかける」というミッションは、「くじけそうになったが頑張ってやり遂げた」という。

果たして、研修の効果はあったのか?仕事ぶりを見ていると。

話し方が少し朗らかになったようにも見えるが、気のせいか…
うーん、よく分からない…。

そこで、いつもそばで仕事をしている先輩社員に聞いてみた。

先輩社員は「まだよく分からないけど」と前置きしつつ、「話し方に落ち着きが出てきたし、電話を積極的にとるようになった」と話してくれた。わずかながらも、相見さんに“変化”がみられるようだ。

取材の最後、相見さんは、今後の目標についてこう語ってくれた。

相見さん
「途中でプランが変わっても臨機応変に対応できて、“自分にもできるんだ”って自信になりました。この経験がどういった形で仕事に生かされてくるのか、自分自身、まだ分からない部分がありますが、きっとこの経験をしてよかったと思える日が来ると思います。それを願って、仕事をして社会人生活を頑張っていきたいです」

経験を自信に、発見をアイデアに

“とにかく研修の効果を見極めろ”。

デスクにそう命じられていた私だが、取材を終え、そこにばかりこだわるのは少し違うのかもしれないと感じた。

他人の懐に飛び込む勇気とトラブルに対処する冷静さ。

数か月、あるいは数年先になるかもしれないが、経験が自信に、発見がアイデアにつながり、ビジネスとして花を咲かせてくれれば、というのが会社の期待なのだろう。

1人旅を研修に。

そんな企業が今後、増えてくるかもしれない。

松江放送局記者
三井 蕉子
2020年入局
県西部を担当する浜田支局に勤務
旅先では計画立てずに歩き回る派

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