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カンボジアで新しい年 宇賀なつみがつづる旅(51) - 朝日新聞デジタル

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。宇賀さんが2024年を迎えようと行ったのは、カンボジア。しかし新年を迎える前に想定外のことが。

「また日は昇る カンボジア」

2023年の仕事を納めた翌朝、
まだ暗いうちに家を出て、成田空港へ向かった。

今回年越しの場所に選んだのは、カンボジア。
アンコール・ワットで初日の出を見て、すぐに日本に戻り、
久しぶりに実家でゆっくりお正月を過ごそうと思っていた。

ベトナムで飛行機を乗り継ぎ、シェムリアップに到着したのは夜。
ホテルで軽く夕食を済ませて、外を歩いてみた。

東南アジアも都市部はかなり発展してきているが、
この辺りはまだ土埃(つちぼこり)が舞い、野良犬がウロウロしている。
冬の寒さで固まっていた体がゆっくりとほぐれて、
生温かい異国の空気になじんでいくのがわかった。

川沿いでたくさんの若者が待ち合わせをしていた。
ひと組、またひと組と、バイクにまたがり夜の闇に消えていく。
22時を過ぎてもまだ、夜は始まったばかりなのだ。

ふらふらあてもなく歩いていると、
ネオンが輝き爆音が響く、にぎやかな通りにたどり着いた。

カンボジアで新しい年 宇賀なつみがつづる旅(51)

世界中から集まった外国人観光客が、見事なまでに浮かれて騒いでいる。
楽しそうにしている大人たちを見ると、ついつられてしまう。
久しぶりに甘いカクテルを飲んで、懐かしい音楽に身を任せた。

まだ10歳にも満たないであろう裸足の子供たちが、
土産物や果物などを売りに、店内に入ってくる。
大柄な男性たちがたばこを吸いながらビリヤードを楽しむ横で、
じっと立って、誰かが視線を向けてくれるのを待っていた。
この景色もまた、しっかり胸に刻まなければいけないと思った。

翌朝、ゆっくり起きて朝食をとった後、
トゥクトゥクに乗って、アンコール遺跡群に向かった。

アンコール・ワットがあまりに有名だが、
それ以外にも見応えがある遺跡がたくさん残っている。
特に印象的だったのは、タ・プローム。
崩れかけた寺院が木々にのみ込まれた姿は、美しかった。
人間の作ったものなど、自然には到底及ばないということだろうか。

カンボジアで新しい年 宇賀なつみがつづる旅(51)

その後は、ずっと泊まってみたかったホテルに移動した。
中心地からは離れた森の中にある、楽園のような場所。
一年頑張ったご褒美に、プール付きのテントを予約していた。

敷地内を案内してもらい、ベッドに横になって休んでいると、
急にせきが止まらなくなってしまった。

遺跡を歩いた際に土埃を吸ったからだろうか?
すぐにフロントに相談すると、しょうがはちみつ紅茶を用意してくれた。

そこから一晩、何をしてもせきが止まらず、ほぼ寝付けなかった。
翌朝になると熱も上がってきてしまい、医師を呼んでもらうことになった。

海外で体調を崩すのは、これが初めて。
体力には自信があったので驚いたし、心細くて仕方なかった。

年末に忙しく働き過ぎたのだろうか……。
家でのんびりしていれば良かったな……。

今更何を考えても仕方ないのに、どんどん思考がネガティブになる。
そんな中、日本人の女性看護師が医師と一緒にやってきてくれた。
優しい笑顔で、日本語で声をかけてくれて、涙が出そうなほど安心した。

診察後に飲み薬をもらい、涼しい部屋で安静にしていたら、
夜にはだいぶ回復していた。
丸一日飲み続けた紅茶のおかげで、のどの痛みも和らぎ、
大みそかの夜は、きちんと夕食をとることができた。

カンボジアで新しい年 宇賀なつみがつづる旅(51)

年が明けて1月1日。
少し迷ったけれど、すっかり体調が良くなっていたので、
予定通り、初日の出を見にいくことにした。

同じことを考えている人はたくさんいた。
さまざまな言語が飛び交う中、暗い道を進んでいくと、
少しずつ空が明るくなってきた。

広場に着くと、もうすでにたくさんの人が待ち構えていた。
私も場所を確保してその瞬間を待ってみたが、
雲が多くて、なかなか太陽が見えなかった。

そうだ、塔に上ればいいんだ。
普段なら尻込みしてしまいそうなほど急な階段を、一気に駆け上る。
すると、どこからともなく歓声が上がった。

異国の地で見た今年最初の太陽は、
全てを帳消しにしてくれるような、柔らかい光を放っていた。

カンボジアで新しい年 宇賀なつみがつづる旅(51)

また新しい年が始まる。
なんだかとても良い年になるような気がした。

思い通りにいかないこともあるけれど、必ずまた日は昇る。
それなら何度でもやり直せるはずだ。

新年早々、日本では痛ましいニュースが続いてしまった。
改めて、当たり前にある日々に感謝。
もっと目の前にあるものを大切にしようと誓った。

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