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【写真紀行・瀬戸内家族】地図に経験加味し巡る旅の楽しみ - 産経ニュース

地図が好きだ。初めてアジアを旅した時も、ガイドブックではなく地図を携行したものだった。地名や地形を眺めてあれこれ空想するのが楽しいのだろう。ウェブ上に情報が溢(あふ)れる今も、行先を決める上で地図が重要なことに変わりはない。

さて、今週は徳島県の蒲生田岬のつけ根にある椿泊の写真を選んだ。阿波水軍が城を構えた歴史ある町だが、そこを訪ねたのも地図を見て地勢にまず興味を覚えたからだった。深く切れ込んだ入江が隠れ家的でどうも気になる。こうした土地は昔ながらの佇まいを残していることも多く、ぜひ行ってみたいと思ったのだ。

実際に足を運んでみると、案の定風情豊かな古い町並みが半島に沿って広がっていた。今はハモ漁が盛んだというが、昭和初期には遠洋漁業の拠点だったらしい。最盛期にはかなり繁盛したようで、玄関の引き戸や出窓の欄干に瀟洒(しょうしゃ)な意匠が施された木造家屋も多い。それが観光地化されずに自然な形で残っており、見ていて飽きることがなかった。

今回のように地図頼みの旅がいつもうまくいくとは限(かぎ)らない。それでも経験や直感を加味することで、こうして自分好みの良い旅ができると喜びもひとしおだ。

小池英文(こいけ・ひでふみ)写真家。東京生まれ。米国高校卒後、インドや瀬戸内等の作品を発表。広島・因島を中心に撮影した写真集「瀬戸内家族」(冬青社)を出版。ウェブサイト「http://www.koike.asia/」

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