フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。酷暑の日本から宇賀さんが向かったのは北欧。フィンランドでサウナを巡って、帰りに気づいたことが。
「ナチュラルになる フィンランド」
酷暑の日本を飛び出して、北欧へ。
今年の夏は、この上なくぜいたくな避暑を経験した。
ヘルシンキの空港を出た途端、寒さに震えた。
ちょうど雨が上がったばかりの早朝、気温は15度だった。
この冷たい空気が久しぶりで、なんだかうれしい。
トランクから薄手のダウンを引っ張り出し、
そのままタクシーに乗って、フェリー乗り場へ急いだ。
実は最初、バルト三国を巡ろうとしていた。
海を渡ってエストニアに入り、そのままラトビア、リトアニア。
バスの時刻表も調べていたのに、急に予定が変わった。
友人たちがフィンランドにいることがわかり、
皆で合流して、一緒にサウナ巡りをすることになったのだ。
ホテルを予約していなくてよかった。
エストニアに2泊した後、またフェリーに乗ってヘルシンキへ戻った。

まずは街の中心部にあるサウナから。
レストランが併設されていて、洗練されているので、
観光客が多いのかと思ったら、地元の若者がたくさんいた。
水着に着替えて、初めてのスモークサウナに入る。
薪ストーブに煙突がないので、最初に室内の煙を逃がすらしいが、
焦げたような匂いが残っていてなんともいえず、燻製(くんせい)されているような気分になる。
皆豪快にロウリュしてくれるので、次々に汗が噴き出す。
でも、まだ出たくない。
我慢しているわけではなくて、心地よくて動きたくないのだ。
フィンランドのサウナでは、時計も温度計も見かけなかった。
ビールを飲みながら入っている人がいたり、
外気浴をしながらワインボトルを開けている人たちもいた。
皆好きなように楽しんでいる。
それでも、誰かが入ってきたらサッと席をつめて、
足りないようなら、長く入っていた人から出ていく。
そんな心配りは完璧だった。
そろそろ私が出なくてはいけない番だった。
外へ出ると太陽の光がまぶしく、自分の体から湯気が上がっているのがわかる。
そのままバルト海へ続く階段を下りた。
思い切って飛び込むと、一気に体が冷やされ、生まれ変わったような感覚だった。
そんなことを何度か繰り返して、すっかりととのった後、
電動スクーターに乗って、ほかほかになった心と体で、海沿いの公園を駆け抜けた。
こんなに幸せな瞬間が、あとどのくらいあるのだろう……。

次の日はユバスキュラに向かった。
車を走らせ3時間半。
湖のほとりを中心に広がっている街だ。
到着して荷ほどきしたら、すぐにサウナに入った。
汗をかいたら、目の前の湖に飛び込む。
サラサラした気持ちの良い水の上に、ぼんやり浮いていると、
地球の一部になれているような気がしてくる。
すっかり体が冷えてしまったので、またサウナに入る。
すると、今度は熱くなってくるので、また湖に入る。
途中夕食を挟んで、何度も繰り返していたら、
いつの間にか暗くなっていた。
暮れていく空や、街の明かりを眺めながら泳ぐなんて、初めてだった。

最後の日、空港の近くにあるサウナに行った。
湖に飛び込むことにも、カモの隣で外気浴することにも、
もうすっかり慣れていた。
「ここは人がいなくていいだろう?」
家族連れに声をかけられた。
ここでは、静かであることこそがぜいたくなんだ。
確かに、どこに行っても、音が少なかった。
だからこそ、地球を身近に感じられたのかもしれない。
「自然が一番大事だよ」
反対側の岸まで泳いでいった息子を目で追いながら、
父親が言っていた。
帰りの飛行機に乗る前に、荷物を整理していると、
一度もメイクポーチを開けていなかったことに気づいた。
ずっとサウナに入っていたので、化粧をするタイミングがなかったのだ。
これこそがフィンランド。
私自身も、いつもよりナチュラルでいられたのかもしれない。
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